莫言の「蛙」の多変量解析-クラスタ分析と主成分2


2 国策重視

「蛙」は、眼の大きな一匹の蝿が蝿の眼で田舎の宿場の様子や乗客たちを分析するときの話である。
 山東省にある片田舎の婦人科の女医が「蛙」の主人公である。彼女の名前は万心で、登場人物の名前が身体の部位や人体の器官から取られている。こうした風習は、母と繋がっているという意味であろうか。新中国成立後、1970年代に始まる政策の一つに出産の規制がある。この計画出産は、吉田(2011)によると増加率が年20%を越えた人口問題に対応するための国策であり、30年の月日を経て人口の増加はようやく鈍化した。
 万足の最初の妻王仁美が密かに二人目を孕む場面や王胆が月足らずで陳眉を出産する場面、食用蛙の養殖工場の裏にある代理出産センターを舞台にした陳眉と小獅子による親権争いなど、出産に纏わる筋立てでストーリーが展開し、最後に代理ではあるが、小獅子と万足夫婦が子供を授かるところで終わる。
 莫言(1955年-)の「蛙」の購読脳を「計画出産と現実」にする。計画出産は、上述のように中国の国策である。正義または正義感は、平等であることをいう。資本主義であれば、確かに法のレベルで形式的に平等があり、一方、社会主義の場合は、その実現があって初めて平等が主張される。
 自由の平等は、自分と相手が合意可能な正義とし、正しい社会の調節を社会経済の平等と置き換えることも可能である。そこで「蛙」の執筆脳は、「正義と平等」にする。正義に纏わる脳の活動は一徹である。一筋に思い込んであくまで強情に押し通そうとする性質または頭の使い様のことである。
 「蛙」の購読脳を「計画出産と現実」、執筆脳を「正義と平等」にすると、シナジーのメタファーは「莫言と正義」になる。これは、リスク回避にも通じることである。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より


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