森鴎外の「佐橋甚五郎」の多変量解析-クラスタ分析と主成分6


◆場面2 賭け

源太夫はこういう話をした。甚五郎は鷺を撃つとき蜂谷と賭をした。蜂谷は身につけているものを何なりとも賭けようと言った。A1B1C2D2

甚五郎は運よく鷺を撃ったので、ふだん望みをかけていた蜂谷の大小をもらおうと言った。A1B1C2D2

それもただもらうのではない。代わりに自分の大小をやろうというのである。A1B1C2D2

しかし蜂谷は、この金熨斗(きんのし)付きの大小は蜂谷家で由緒のある品だからやらぬと言った。
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甚五郎はきかなんだ。「武士は誓言(せいごん)をしたからは、一命をもすてる。よしや由緒があろうとも、おぬしの身に着けている物の中で、わしが望むのは大小ばかりじゃ。ぜひくれい」と言った。A1B1C2D2

「いや、そうはならぬ。命ならいかにも棄ちょう。家の重宝は命にも換えられぬ」と蜂谷は言った。
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「誓言を反古(ほご)にする犬侍め」と甚五郎がののしると、蜂谷は怒って刀を抜(ぬ)こうとした。
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甚五郎は当身を食わせた。A2B1C2D2

それきり蜂谷は息を吹き返さなかった。A1B1C2D1

平生何事か言い出すとあとへ引かぬ甚五郎は、とうとう蜂谷の大小を取って、自分の大小を代りに残して立ち退いたというのである。A1B1C2D1

花村嘉英(2019)「森鴎外の「佐橋甚五郎」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より


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