日本語から見た東アジアと欧米諸語の比較14


 日本語の使役態は、動詞+「せる」/「させる」の形になる。意味としては、①力で他のものを動かすものと②他者の意志を尊重してその意思通りの行動を許可するものとがある。

(37)社員には始末書を提出させる。
(38)会議では自由に発言させる。

「提出させる」は他者を動かし、「発言させる」は行動を許可する意味になる。
使役態も非情物が主語になると、あまり使われない。また、使役態を使うところを能動態ですませることもある。

(39)市は橋を建設した。

工事関係者に橋を建設させたことを言っている。
 中国語の使役文は、使役動詞(例、使、让、叫など)を用いてその目的語が同時に後の動詞の主語にもなる構造である。中国語も施事者が受事者に対して働きかけ、指示に従って行動させる意味内容を表す。

(40)老师叫学生回家。(先生は生徒たちを帰宅させる。)(山本哲也 2002)

また、放任や許可を表す文もある。この場合、施事者は受事者を放任して、好きなようにやらせる。

(41)成年人看的电影能让孩子看吗?(成人映画を子供に見せていいのでしょうか。)

 さらに、主語が抽象的な事柄や状態で、結果的に受事者の何かをやらせるものもある。この場合、述語は感情や心理を表す動詞が使われる。

(42)老师的话使大家笑了起来。(先生の話は皆を笑わせた。)

(42)は施事者の行為が原因で受事者の行為が引き起こされるため、訳出する日本語を使役文ではなく、因果文にすることもできる。因果文とは、原因と結果が一つの文で書かれているものを言う。

表7
日本語の使役文 動詞+「せる」/「させる」の形。意味としては、①力で他のものを動かすものと②他者の意志を尊重してその意思通りの行動を許可するものとがある。
中国語の使役文 使役動詞(例、使、让、叫など)を用いてその目的語が同時に後の動詞の主語にもなる構造である。放任や許可を表す文や主語が抽象的な事柄や状態で、結果的に受事者の何かをやらせるものもある。

花村嘉英(2018)「日本語から見た東アジアと欧米諸語の比較-言語類型論における普遍性を中心に」より


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