作家の担う役割として自然や文化の観察者を想定し、島崎藤村の「千曲川のスケッチ」、エリアス・カネッティの「マラケシュの声」、志賀直哉の「城之崎にて」、国木田独歩の「武蔵野」を用いてデータベースを作成しながら、平易な統計分析、例えば、バラツキ、相関関係、多変量そして心理学によるデータ分析を行っている。こうすると文学や言語学に関するミクロの研究や国地域の比較に加えて、トップダウンからの観察社会論に基づくマクロの研究と共に、中間に位置するメゾの研究を処理することができるからである。
また、人の目のみならず虫の目による観察もこのカテゴリーに入れることができる。例えば、田舎の馬車道での滑落事故を描いた横光利一の「蝿」や主人公が大きな目をした害虫に変身して目覚めるフランツ・カフカの「変身」などである。
比較でみると、国地域に関して言語や文化による分け隔てはなく、地球上のどこもが研究の対象になるため、 シナジーのメタファーは、すべての言語に適応可能な研究方法といえる。因みにこれまで筆者が研究した作家の国地域を見ると、東アジア(森鴎外、井上靖、川端康成、小林多喜二、中島敦、芥川龍之介、坂口安吾、有島武郎、三浦綾子、佐藤愛子、幸田文、魯迅、莫言)、ヨーロッパ(トーマス・マン、ハインリッヒ・ベル、ペーター・ハントケ)、南アフリカ(ナディン・ゴーディマ)であり、さらに北米や南米など他の国地域の作家たちにもシナジーのメタファーの研究を適応させていきたい。
花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より