森鴎外の「山椒大夫」の多変量解析-クラスタ分析と主成分6


◆場面2 師実との出会い

山城の朱雀野に来て、律師は権現堂に休んで、厨子王に別れた。A1B1C2D2

「守本尊を大切にして往け。父母の消息はきっと知れる」と言い聞かせて、律師は踵(くびす)を旋した。
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亡くなった姉と同じことを言う坊様だと、厨子王は思った。A1B1C1D2

都に上った厨子王は、僧形になっているので、東山の清水寺に泊った。A1B1C2D1

籠堂(こもりどう)に寝て、あくる朝目がさめると、直衣(のうし)に烏帽子を着て指貫(さしぬき)をはいた老人が、枕もとに立っていて言った。A1B1C2D2

「お前は誰の子じゃ。何か大切な物を持っているなら、どうぞおれに見せてくれい。おれは娘の病気の平癒を祈るために、ゆうべここに参籠(さんろう)した。すると夢にお告げがあった。左の格子に寝ている童がよい守本尊を持っている。それを借りて拝ませいということじゃ。けさ左の格子に来てみれば、お前がいる。どうぞおれに身の上を明かして、守本尊を貸してくれい。おれは関白師実じゃ」A1B1C1D2

厨子王は言った。「わたくしは陸奥掾正氏(むつのじょうまさうじ)というものの子でございます。父は十二年前に筑紫の安楽寺へ往ったきり、帰らぬそうでございます。母はその年に生まれたわたくしと、三つになる姉とを連れて、岩代の信夫郡(しのぶごおり)に住むことになりました。そのうちわたくしが大ぶ大きくなったので、姉とわたくしとを連れて、父を尋ねに旅立ちました。越後まで出ますと、恐ろしい人買いに取られて、母は佐渡へ、姉とわたくしとは丹後の由良へ売られました。姉は由良で亡くなりました。わたくしの持っている守本尊はこの地蔵様でございます」こう言って守本尊を出して見せた。A1B1C2D2

師実は仏像を手に取って、まず額に当てるようにして礼をした。A1B1C2D2

それから面背(めんぱい)を打ち返し打ち返し、丁寧に見て言った。A1B1C1D1

「これはかねて聞きおよんだ、尊い放光王地蔵菩薩(ほうこうおうじぞうぼさつ)の金像じゃ。百済国から渡ったのを、高見王が持仏にしておいでなされた。これを持ち伝えておるからは、お前の家柄に紛(まぎ)れはない。仙洞(せんとう)がまだ御位(みくらい)におらせられた永保の初めに、国守の違格(いきゃく)に連座して、筑紫へ左遷せられた平正氏が嫡子に相違あるまい。もし還俗(げんぞく)の望みがあるなら、追っては受領の御沙汰もあろう。まず当分はおれの家の客にする。おれと一緒に館へ来い。」A1B1C1D1

花村嘉英(2019)「森鴎外の「山椒大夫」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より


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