投稿者: info@hana123.girly.jp

  • クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える6

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の条件である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

  • クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える5

    分析例

    1 スカモン船長が小説の現在1911年から過去の1856年1月について語る場面。  
    2 この小論では、「パワナ」の執筆脳を「語りの効果と再生」と考えているため、意味3の思考の流れ、再生に注目する。   
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3関心①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし。    
    4 人工知能 ①語りの効果、②再生。   
     
    テキスト共生の公式   
     
    ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「捕鯨と現在過去の対比」を作る。
    ステップ2 小説の現在1911年から過去の1856年1月について語るため、「語りの効果と再生」という組を作り、解析の組と合わせる。   

    A ①視覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①語りの効果+②再生という組と合わせる。
    B ②聴覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①語りの効果+②再生という組と合わせる。
    C [①視覚+②聴覚] +④楽+①あり+①直示という解析の組を、①語りの効果+②再生という組と合わせる。 
    D ①視覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①語りの効果+②再生という組と合わせる。
    E [①視覚+⑤触覚]+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①語りの効果+②再生という組と合わせる。   

    結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

  • クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える4

    【連想分析1】
    表2 受容と共生のイメージ合わせ

    スカモン船長が過去を語る場面
    A Moi, Charles Melville Scammon, en cette année de 1911, approchant de mon terme, je me souviens de ce premier janvier de l’année 1856 quand le Léonore a quitté Punta Bunda, en route vers le sud. 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 1
    B Je n’ai voulu donner aucune vers explication à l’équipage, mais Thomas, mon quartier-maître, avait surpris une conversation avec le second capitaine, M.Roys, dans la salle des cartes. 意味1 2 、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 2
    C Nous parlions de ce passage secret, du refuge des baleines grises, là où les femelles venaient mettre au monde les petits. 意味1 1+2、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人口知能 2
    D M. Roys ne croyait guère à l’existence d’un tel refuge qui, selon ce qu’il disait, ne pouvait être né que dans l’imagination de ceux qui croyaient aux cinetières des éléphants ou au pays des Amazones. 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味14 1、人工知能 2
    E Purtant, le bruit s’est répandu et une sorte de fièvre s’est emparée de tout l’équipage. C’était bien cela qu’on allait chercher au sud, ce refuge secret, cette cachette fabuleuse, où toutes les baleines du pô le étaient réunies. 意味1 1+5、意味2 3、意味3 1、意味1 1、人工知能 2

    花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

  • クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える3

    3 データベースの作成

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】

    表1 「パワナ」のデータベースのカラム

    項目名 内容  説明
    文法1 態    能動、受動、使役。
    文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法3 様相  可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽  情動との接点。瞬時の思い。
    意味3 思考の流れ 関心ありなし
    意味4 振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「捕鯨と現在過去の対比」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。  
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能
    効果と再生 エキスパートシステム 効果とは、場面にふさわしい状況を人為的に作ること。再生とは、精神的に生まれ変わること。

    花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

  • クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える2

    2 Lのストーリー

     J.M.G.ル・クレシオ(1940-)の「パワナ」は、語りの効果を大切にしている。(菅野1995)クレシオの文体によるものでもあり、老人の独白に細工が加えられている。19世紀のアメリカの捕鯨産業全盛の時代につながるように、港の騒音について語り(je l’ai appris sur les quais de Nantucket, avec les cris des oiseaux dépeceurs, le bruit sourd de jaches)、捕鯨産業を湧きたたせた人間のエネルギーがイメージされるように、インディアンの船乗りが活躍している(En ce temps-là, tous les marins chasseurs de baleines étaient des Indiens de Nantucket)。個人の物語しか語らぬ語り手のジョン老人がかつて少年であったころ(c’est là que j’ai marché, quand j’avais huit ans)も含めて自分でも気づかぬうちに歴史上価値のある人物になっている。 
     ナンタケットの活況と表裏をなす残虐さが人間にはある。表層に現れない死の影を見ても盛況な時代は懐かしい過去である。現在と過去の対立は、「パワナ」の小説構造で重要である。双方の間を流れる郷愁の情愛は、確かに濃密である。クジラの楽園を破壊した苦渋の出来事もしばしば再生されて現在と交わり続ける(Je marche maintenant sur cette plage déserte, et je me souviens de ce que c’était)。
     回想の語り手はもう一人いる。スカモン船長である。船長の意識は、1856年のクジラの楽園の発見と破壊から物語の現在がある1911年の間をさまよい、歴史の背景と結びついている(approchant de mon terme, je me souviens de ce premier janiver de l’année)。1860年前後でアメリカの捕鯨産業は、石油開発やスチールの製造技術の進歩により衰退した。それまで灯油として使われた鯨油や服飾用だったクジラの髭は、時代遅れになっていく。現在と過去の対立は、歴史の背景と結びついていく。
     菅野(1995)によると、スカモン船長は、クレジオによる再生である。再生とは、精神的に生まれ変わることである。知覚したイメージを記憶して心で再現する人間の精神活動の一つ、表象に似ている。例えば、以前に経験した事象や学習した事柄を思い出すことは、脳が生み出す意識、感情、思考、判断のような精神活動の類である。 
     「パワナ」の購読脳は、「捕鯨と現在過去の対比」、執筆脳は、「語りの効果と再生」であり、シナジーのメタファーは、「クレジオと語りの効果」にする。「パワナ」は、クレジオの世界探索の欲求とのその方向性とが融合した純度の高い結晶である。

    花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

  • クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える1

    1 はじめに

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
     執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。

    花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

  • ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える11

    4 まとめ

     レッシングの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「飢え」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。  
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みがある。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    参考文献

    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
    花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える 中国日語教学研究会上海分会論文集 2021
    花村嘉英 計算文学入門(改訂版)-シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
    ウィキペディア ドリス・レッシング
    Doris Lessing Hunger in collected African stories 2 Triad Grafton books 1979
    Doris Lessing Wikipedia
    Hunger(Doris Lessing)Wikipedia 

    花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

  • ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える10

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    B 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    C 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    D 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2

    結果 Tennent氏は、週に一度独房を訪れ、囚人と対話をする。人種差別から不幸な境遇にあるJabavuを気使いながら、Mizi氏の手紙を手渡す。罪を認めて正直にあれと。一人ではないアフリカ人私たち皆の思いである。Jabavuの飢えは、初めて拒絶されることなく、優しくWeの中に流れていく。そのため、購読脳の「犯罪と成長」からレッシングの執筆脳「抵抗と表明」という執筆脳の組を引き出すことができる。  

    花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

  • ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える9

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の条件である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

  • ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える8

    分析例

    1 英国人牧師Tennent氏が独房を訪れる場面。   
    2 この小論では、「飢え」の執筆脳を「抵抗と表明」と考えているため、意味3の思考の流れ、抵抗に注目する。  
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3抵抗①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし
    4 人工知能 ①抵抗、②表明 
     
    テキスト共生の公式   
     
    ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「犯罪と成長」を作る。
    ステップ2 飢えと金が問題だと強調しているため、「抵抗と表明」という組を作り、解析の組と合わせる。

    A ①視覚+①喜+①あり+②隠喩という解析の組を、①抵抗+②表明という組と合わせる。
    B ①視覚+③哀+②なし+②隠喩という解析の組を、①抵抗+②表明という組と合わせる。
    C 「①視覚+⑤触覚」+②怒+①あり+①直示という解析の組を、①抵抗+②表明という組と合わせる。 
    D ①視覚+③哀+②なし+①直示という解析の組を、①抵抗+②表明という組と合わせる。
    E 「①視覚+②聴覚」+④楽+②なし+①直示という解析の組を、①抵抗+②表明という組と合わせる。   

    結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より