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  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成4

     表1は、駒子が三味線の稽古をしている場面である。駒子と島村は、やり取りをしている間に、お互いに気持ちの整理がついてきた。三曲目にもなれば、いつもの稽古の様子を体が覚えているし、聞き手にもそう聞こえてくる。新曲浦島を引いたところで駒子の目的は達成された。
     データベースのセカンドのカラムの設定は、分析をさらに詳細にする効果がある。例えば、振舞いのカラム(直示と隠喩)の焦点を絞って、特に登場人物の顔の表情というジェスチャーについて調べながら、これが脳の信号の伝わり具合とどのように関連しているのか考えることが作者の執筆脳との関係を解き明かしてくれる。表1のカラムの要素を確認していこう。

    花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成3

    表1 データベースからの抜粋

    A 三曲目に都鳥を弾きはじめた頃は、その曲の艶な柔らかさのせいもあって、島村はもう鳥肌たつような思いは消え、温かく安らいで、駒子の顔を見つめた。そうするとしみじみ肉体の親しみが感じられた。
    無と創造 1, 1
    (五感)情報の認知1と顔の表情 (1+2) 2, 11
    人工感情と認知発達 1, 2
    B 細く高い鼻は少し寂しいはずだけれども、頬が生き生きと上気しているので、私はここにいますという囁きのように見えた。
    無と創造 1, 1
    (五感)情報の認知1と顔の表情 (1) 1, 3
    人工感情と認知発達 1, 2
    C あの美しく血の滑らかな脣は、小さくつぼめた時も、そこに写る光をぬめぬめ動かしているようで、そのくせ唄につれて大きく開いても、また可憐にすぐ縮まるという風に、彼女の体の魅力そっくりであった。
    無と創造 1, 1
    (五感)情報の認知1と顔の表情 (1) 1, 4
    人工感情と認知発達 2, 2
    D 粉はなく、都会の水商売で透き通ったところへ、山の色が染めたとでもいう、百合か玉葱みたいな球根を剥いた新しさの皮膚は、首までほんのり血の色が上がっていて、なによりも清潔だった。
    無と創造 1, 1
    (五感)情報の認知1と顔の表情 (1) 1, 10
    人工感情と認知発達 2, 2
    E しゃんと坐り構えているのだが、いつになく娘じみて見えた。最後に、今稽古中のをと言って、譜を見ながら新曲浦島を引いてから、駒子は黙って撥を糸の下に挟むと、身体を崩した。
    無と創造 2, 1
    (五感)情報の認知1と顔の表情 (1+2) 2, 11
    人工感情と認知発達 2,1

    花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成2

    2 データベースの作成と分析

     「雪国」のデータベースを作成する際、カラムが文理でリレーショナルになるように並べ方を工夫している。購読脳のカラムには、構文論として助詞、時制、態、様相を置き、意味論には、喜怒哀楽、五感(1視覚、2聴覚、3味覚、4臭覚、5触覚)、振舞い(直示、隠喩)、無と創造(其々1ある2なし)を置いている。
     次に、顔の表情については、情報の認知1(情報の捉え方 1ベースとプロファイル2グループ化))のセカンドのカラムとして数字を作りたい。例えば、1眉を動かす、2瞼を動かす、3頬を動かす、4唇を動かす、5口を開ける、6顎を動かす、7息を吐く、8鼻を動かす、9目を動かす(細目、薄目、ウインク、瞬き)、10肌色(赤らむ、青ざめる、日焼け、化粧)、11中立を置き、顔の表情の数字と五感及び情報の認知1を組みにする。
     さらに驚き、恐れ、怒り、嫌悪などといった感情の基本表現のうち、川端文学では愛情が重要となるため、人工感情の要素は、1原点(無+愛→愛情)と2創造(理想の型+加工→人格)にする。愛が無と組になって愛情となるか、または人格が形成されれば、認知発達でいう目的達成のときにシナジーのメタファーが成立する。

    (2)データベースの各場面の信号の流れ

     「文法1(助詞)」→「文法2(時制、相)」→「文法3(態)」→「文法4(様相)」→「意味1(喜怒哀楽)」→「意味2(五感)」→「意味3(振舞い)」→「意味4(無)」→「意味5(創造)」→「意味6(数字)」(言語の認知の出力は「無と創造」、これが情報の認知の入力となる)→「医学情報」→「情報の認知1(情報の捉え方)」→「セカンド 顔の表情」→「情報の認知2(記憶と学習)」→「情報の認知3(問題解決)」→「人工感情(1愛情2人格)」→「認知発達(1目的達成2非ず)」(情報の認知の出力)

    花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成1

    1 論文の方向性-Lのストーリー

     シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることを現状のレベルでまとめている。今後、統計処理など研究の技がさらに増えていくように日々精進していきたい。この論文では川端康成(1899-1972)の雪国を題材にする。
     「雪国」の購読脳を「無と創造」という組にする。無については、川端(1979)の中で高田瑞穂が次のように定義している。
     無は、孤児として育った川端の原点ともいえる感情であり、あらゆる存在よりも広くて大きい自由な実在である。無とはこの青空よりも大きい見たこともない父母に通じ、愛と死が融けあって康成の文学が誕生した。特に、雪国の中では、無が愛と組になると止揚の暗示、つまり愛情となり、愛と死が組になれば、天井へ飛躍したり、時には地下へ埋没する。二つの矛盾対立する概念は、止揚により相互に否定し合いながら、双方を包むより高次の統一体へ発展していく。
     また、創造についても、川端が作品を書きながら、動物の生命や生態をおもちゃにして、一つの理想の鋳型を定め、人工的に畸形的に育てているとする。「雪国」の中では、島村がふと思い、呟き、動く存在で、駒子については指で覚えている女、葉子も眼に火がついてる女として繰り返されるところに康成の創造がある。
     確かに孤独な生い立ちもあって、「雪国」のみならず川端の作品には、愛情に対して感謝の気持ちがあるといわれている。(川端康成1979: 153)愛とは、価値を認めて大切に思うこと、例えば、学問への愛とか男女や親子の抱擁であり、愛情とは、死んだ親とか恋人を慈しむ心である。「雪国」に記された島村と駒子が交わすやり取りの中に次のような一節がある。
     「でも、これが奉公かしらと思うことがあるくらい、うちの人はずいぶん大事にしてくれのよ。子供が泣いたりすると、おかみさんが遠慮して表へ負ぶって出て行くわ。なんの不足もないけれど、寝床の曲がってるのだけはいやね。帰りがおそいと敷いといてくれるのよ。敷布団がきちんと重なってなかったり、敷布がゆがんでたりでしょう。そんなのを見ると、情なくなって来るのよ。そうかって、自分で敷きなおすのは悪いわ。親切がありがたいから。」(川端康成1979: 84)
     おかみさんが子供を世話してくれることに対する駒子の感謝の気持ちと小さい注文が見え隠れする。奉公の身分にある駒子は、おかみさんの小さな親切がありがたい一方、布団もきれいに敷いといてもらえない自分の立場を考えもする。

    花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える9

    5 まとめ

     アナトール・フランスの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「クランクビーユ」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。  
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。

    参考文献

    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のDB化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会 2015
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会 2018
    花村嘉英 計算文学入門(改訂版)-シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
    Anator France Affaire Crainquebille(「クランクビーユ」山内義雄訳)Exporté de Wikisource 2014

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える8

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    B 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    C 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    D 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    E 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1

    A 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。  
    B 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    D 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    E 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。   

    結果  
      
     この場面でブリッシュ裁判長は、法の精神に浸透し、吾人であるマトラ巡査は過ちを犯すも、人間性を引いた警官第64号は過ちを犯すことがないとし、証言を受け入れた。そのため、購読脳の「現実と実体」からクランクビーユの置かれた立場「裁判と無謬性」という執筆脳の組を引き出すことができる。   

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える7

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の条件である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える6

    分析例

    1 裁判所に居合わせた男ジャン・レルミットがクランクビーユの裁判について解説する場面。  
    2 この小論では、「クランクビーユ」の執筆脳を「裁判と無謬性」と考えているため、意味3の思考の流れ、無謬性に注目する。    
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3無謬性①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし。     
    4 人工知能 ①裁判、②無謬性。   
     
    テキスト共生の公式   
     
    ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「現実と実体」を作る。
    ステップ2 法の精神として人のことばではなく常に正しくある剣を優先せよとしたため、「裁判と無謬性」という組を作り、解析の組と合わせる。    

    A ①視覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①裁判+②無謬性という組と合わせる。
    B ①視覚+③哀+②なし+①直示という解析の組を、①裁判+②無謬性という組と合わせる。
    C ①視覚+③哀+②なし+①直示という解析の組を、①裁判+②無謬性という組と合わせる。 
    D ①視覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①裁判+②無謬性という組と合わせる。
    E ①視覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①裁判+②無謬性という組と合わせる。   

    結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える5

    【連想分析1】

    表2 受容と共生のイメージ合わせ
    裁判について解説する場面

    A Non pas que Matra (Bastien), né à Cinto-Monte (Corse), lui paraisse incapable d’erreur. Il n’a jamais pensé que Bastien Matra fût doué d’un grand esprit d’observation, ni qu’il appliquât à l’examen des faits une méthode mais l’agent 64. 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能1+1

    B Un homme est faillible, pense-t-il. Pierre et Paul peuvent se tromper. Descartes et Gassendi, Leibnitz et Newton, Bichat et Claude Bernard ont pu se tromper. Nous nous trompons tous et àtout moment.
    意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能1+2

    C Nos raison d’erreur sont innombrables. Les perceptions des sens et les jugements de l’esprit sont des sources d’illusion et des causes d’incertitude. Il ne faut pas se fier au témoignage d’un homme: Testis unus, testis nullus. 意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能1+2

    D Mais on peut avoir foi dans un muméro. Bastien Matra, de Cint-Monte, est faillible. Mais l’agent 64, abstraction faite de son humanité, ne se trompe pas. C’est une entité. Une entité n’a rien en elle de ce qui est dans les hommes et trouble, les corrompt, les abuse. 
    意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能1+1

    E Elle est pure, inaltérable et sans mélange. Aussi le tribunal n’a-t-il point hésité à repousser le témoignage du docteur David Matthieu, qui n7est qu’un homme, pour admettre celui de l’agent 64, qui est une idée pure, et comme un rayon de Fieu descendu à la barre. 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能1+1

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える4

    3 データベースの作成

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】

    表1 「クランクビーユ」のデータベースのカラム
    文法1 態  能動、受動、使役。
    文法2 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法3 様相  可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽  情動との接点。瞬時の思い。
    意味3 思考の流れ 無謬性ありなし
    意味4 振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報  病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「現実と実体」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。  
    情報の認知1 感覚情報の捉え方  感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 裁判と無謬性 エキスパートシステム 裁判とは、物事を治め管理すること。無謬性とは、誤りを含まないこと。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より