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  • シナジーのメタファーの作り方7

    4 井上靖の「わが母の記」(1975)

     井上靖(1907-1991)の「わが母の記」は、実母の終焉を綴った作品で、認知症の母を家族で支える様子が伝わるため、購読脳の出力を「認知症と適用能力」という組にする。次にこれが入力信号となり、情報の認知を通して作者の執筆脳に向っていく。井上靖の作品は、人間関係や出来事の描写が大変細やかで、常に場面毎のイメージが目に浮かぶ。そこで執筆脳を「記憶と連合野のバランス」にする。「わが母の記」は、「花の下」(1964)、「月の光」(1969)、「雪の面」(1974)という3部作からなっている。また、筆者は、認知症予防改善医療団(DMC)の認知症ケアカウンセラー(2016年12月認定)である。
     「花の下」では、八十歳になり物忘れがひどくなった母が何度も同じ事を言うようになる。郷里を離れ東京の末娘の桑子の家に移ると、認知症の症状が烈しくなり、親戚の秀才兄弟の話を一晩に何回もする。しかし、この位の軽度の認知症では日常生活に大きな支障は生じない。
     「月の光」では、郷里で母が八十五歳になっており、同じ事をさも新しいことのように繰り返す異常さが認知症の進み具合を説明している。軽井沢の夏の家では、道を尋ねた女の幻覚が母の認知症の例になる。また、ある晩息子を探しに月明かりの道をさまよい歩く徘徊もある。コミュニケーションが上手くいかず、家庭生活で支障が出る中程度まで認知症の症状が進んでいる。
     「雪の面」では、母が八十九歳になり老耄も烈しくなっている。母が夜に目を覚ますと、懐中電灯で照らして部屋に入ってくる事件が起こった。孫娘の芳子にもうどこへも出してもらえないのねと囁いた。自分は閉じ込められ監禁でもされていると思っている。母の徘徊により家族が振り回されている。また、朝食を摂ったばかりなのに、やがて夕方が来ると思い込むこともあった。認知症は高度となり、家族の生活も崩壊寸前である。
     認知症の患者は、βアミロイドの蓄積により脳内の神経細胞の神経繊維が萎縮するため海馬が萎縮してしまい、情報がスムーズに送れなくなる。また、受ける側の神経細胞も損傷し情報のやり取りがうまくいかなくなる。ここでは、作者の母の認知症のタイプをアルツハイマー型認知症としよう。日本成人病予防協会(テキスト6)(2014)によると、このタイプは、認知症の中でも最も多く、過去の体験を思い出せない記憶障害が出て、異常な言動を伴うことが頻繁に見られる。

    花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーの作り方について」より

  • シナジーのメタファーの作り方6

     マックスは、精神的な動脈硬化に罹らないようにリスク回避を試みる。妹の結婚式におけるスピーチの場面では、マックスの脳内で快楽の神経伝達物質ドーパミンが前頭葉に分泌し、間脳を経て脳幹に信号が伝わっている。この場面では、妹にまつわる長期記憶とその後の彼らを占う作業記憶のうち後者が強いため、ゴーディマの執筆脳は、前頭葉が活発に働いている。
     前頭葉の一機能といえる意思決定は、唯一の答え、つまり真実を求める決定論型と優先事項に基づいた適応型に分かれる。ゴーディマとマックスの意欲は、適応型の意思決定(反アパルトヘイト)であり、そこに執筆脳に関する解決策を求めていく。
     適応型の意思決定では、状況依存型と状況独立型のバランスが良ければいいが、一概にそうはいかない。例えば、女性は状況独立型を好み、男性は状況依存形を好む。また、比較的変化が少なければ、独立型の方が懸命であろうし、不安定な状況では依存型の方が好ましい。さらに、無限の状態は変化に乏しいため、独立型が良いであろう。しかし、前頭葉の機能には、そもそも性差がある。(Goldberg 2007:127)  

    表3 前頭葉の性差

    比較項目 男性 女性
    適応型の意思決定 状況依存型を好む。 状況独立型を好む。
    状況依存型の
    意思決定 左前頭前野皮質が活動する。 左右両側の後部皮質(頭頂葉)が活動する。
    状況独立型の
    意思決定 右前頭前野皮質が活動する。 左右両側の前頭前野皮質が活動する。
    大脳皮質の機能 左右の脳の違いが著しい。 前部と後部の脳の違いが顕著。
    言語情報の処理 左半球の前部と後部がともに活動する。 左右の大脳半球の前頭葉がともに活動する。
    脳内の結合部 片側の大脳半球の前後をつなぐ白質繊維束が大きく、片側の大脳半球の機能的統合が顕著である。 左右の大脳をつなぐ脳梁の部分が太くて、大脳半球間の機能的統合が顕著である。

     表3から見ると、女性であるゴーディマの執筆脳は、左右両方の前頭前野皮質が活動していたと想定できる。これが“The Late Bourgeois World”(ブルジョワ世界の終りに)を読んで思う「空間と時間」という受容の読みを厚くしてくれる。
     「空間と時間」という購読脳の出力は、意欲を通して適応能力となり、理解、思考、判断などの総合能力によって将来を見据えた作家のリスク回避につながっていく。ゴーディマのLのストーリーは、縦の受容が言語と文学→言語の認知→「空間と時間」となり、横の共生が「空間と時間」→情報の認知→「意欲と適応能力」になる。そこから、「ゴーディマと意欲」というシナジーのメタファーが作られる。また、作成したデータベースから記憶の種別を考えると、マックスの回想が場面ごとに見られるため、エピソード記憶が多い。

    花村嘉英(2018) 「シナジーのメタファーの作り方について」より

  • シナジーのメタファーの作り方5

    3 ゴーディマの“The Late Bourgeois World”(ブルジョワ世界の終わりに)(1966)

     ナディン・ゴーディマ(1923-2014)は、南アフリカの白人社会の崩壊を目指す反アパルトヘイト運動に白人がどのように関与できるのかを自問し、世の中の流れに逆流する自国の現状に危機感を抱いて、何らかの形で革命に関わりたいという意欲を持っていた。こうした作家の脳の活動は、南アフリカの将来を見据えたリスク回避といえるため、特に、「意欲と適応能力」に焦点を当ててゴーディマの執筆脳について考察していく。
     ゴーディマが“The Late Bourgeois World”(ブルジョワ世界の終わりに)を書いた1960年代前半の南アフリカは、ヘンドリック・フェルブールト首相(在任1958-1966)に象徴されるアパルトヘイト全盛の時代で、いくら適応能力があっても政治や法律によりそれを発揮できなかった。そのため、心の働きでは意欲が強くなり、それに伴う計画や判断を含めた脳の活動としては、前頭葉が注目に値する。
     前頭葉は、頭頂葉や側頭葉といった他の連合野と相互関係にあり、また、本能を司る視床下部とか情動や動機づけの反応に対して判断を下す扁桃体と結びつきが強い。(Goldberg 2007:57)
     “The Late Bourgeois World”(ブルジョワ世界の終わりに)は、マックスの死を知った私の一日というストーリーで、そこには小学生の息子ボボ、マックスの両親や妹夫妻、弁護士のグレアム、87歳になる認知症の自分の祖母、運搬請負人のルークがいる。それぞれの場面で彼らがマックスのことを回想しながら、当時の南アフリカの革命に関わる一人の白人の意欲を問題にしている。
     アフリカ民族会議やそこから分裂した過激派のパンアフリカ会議と並ぶ白人による反アパルトヘイト運動、アフリカ抵抗運動も、当時、盛んにサボタージュを繰り返した。1964年7月の全国一斉捜査で活動家が逮捕され、所持していた文書や供述からアフリカ抵抗運動の活動が明るみになった。(福島 1994:187)転職を繰り返すマックスは、こうした白人のサボタージュ運動に属していて、運動初期の段階で逮捕され裁判にかけられた。
     重大な生活上の変化やストレスに満ちた生活が原因となる適応障害は、個人にとって重大な出来事(就学、就職、転居、結婚、離婚、失業、重病など)が症状に先んじて原因となる。(日本成人病予防協会(テキスト3)2014:55)マックスの場合、結婚離婚、就学就職、いずれもうまくいかない。地下組織の人たちと付き合いがあったからである。結局、死を選ぶため、社会に適応する能力がなかったことになる。
     どうにもならない精神状態を説明するときに、ゴーディマは、メディカル表現を用いて問題解決を試みる。心を頑なにして精神を狭める精神的な動脈硬化は、白人居住区が汚染地区であるため、南アフリカの白人たち全員がその対象になる。当時の南アフリカの政治と法律に縛られた無限状態を表す「空間と時間」という購読脳の出力は、情報の認知を通して、新たな国作りのための意欲と精神的な動脈硬化を予防する適応能力という執筆脳の組と相互に作用する。

    花村嘉英(2018) 「シナジーのメタファーの作り方について」より

  • シナジーのメタファーの作り方4

    2.3 シナジーのトレーニング
     
     花村(2017)では、人文科学が専攻の人たちのためにシナジーのトレーニングとして組のアンサンブルを説明している。シナジーという研究の対象は、元々が組からなっているためである。例えば、手のひらを閉じたり開いたりするのも、肘を伸ばしたり畳んだりするのも運動でいうシナジーである。Lのモデルができるだけ多くの組を処理できるように、シナジーの研究のトレーニングとして三つのステップを考えている。
     まず、2.1に記したシナジーの組み合わせから何れかの組を選択し、研究の方向を決める。組み合わせについては、複数対応できることが望ましい。次に、選んだ組からLに通じるテーマを作るために、人文科学と脳科学という組のみならず、ミクロとマクロ、対照と比較の言語文学、東洋と西洋などの項目を考える。また、「トーマス・マンとファジィ」はドイツ語と人工知能という組であり、「魯迅とカオス」は中国語と記憶や精神病からなる組である。そこには洋学と漢学があり、また長編と短編という組もある。 

    表1 テーマの組

    テーマの組 説明
    文系と理系  小説を読みながら、文理のLのモデルを調節する。
    人文科学と社会科学  文献学とデータの作成または統計処理を考える。
    言語と文学  対照と比較双方の枠組みで小説を分析する。
    東洋と西洋  東洋と西洋の発想の違いを考える。例、東洋哲学と西洋哲学、国や地域における政治、法律、経済の違い、東洋医学と西洋医学。
    基礎と応用  まず、ある作家の作品を題材にしてLのモデルを作る。次に、他の作家のLのモデルと比較する。
    伝統の技と先端の技  人文・文化の文献学とシナジーのストーリーを作るための文献学(テキスト共生)。ブラックボックスを消すために、テキスト共生の組を複数作る。(人文と情報、文化とバイオ、心理と医学など)
    ミクロとマクロ  ミクロは主の専門の調整、マクロは複数の副専攻を交えた調節。少なくとも縦に一つ(比較)、横にもう一つ取る(共生)。

     さらに、テーマを分析するための組が必要である。例えば、ボトムアップとトップダウン、言語理論と翻訳の実践、一般(受容)と特殊(共生)、言語情報と非言語情報など。

    表2 分析の組

    分析の組 説明
    ボトムアップと
    トップダウン  専門の詳細情報から概略的なものへ移行する方法。及び、全体を整える概略的な情報から詳細なものへ移行する方法。
    理論と実践  すべての研究分野で取るべき分析方法。言語分析については、モンターギュの論理文法が理論で、機械翻訳が実践になる。
    一般と特殊  小説を扱うときに、一般の読みと特殊な読みを想定する。前者は受容の読みであり、後者は共生の読みである。
    言語情報と
    非言語情報  前者は言語により伝達される情報、後者はジェスチャーのような非言語情報である。
    強と弱  組の構成要素は同じレベルでなくてもよい。両方とも強にすると、同じ組に固執するため、テーマを展開させにくくなる。

     このようにして、Lのストーリーとデータベースから組のアンサンブルを調節し、トーマス・マンの「魔の山」、魯迅の「狂人日記」と「阿Q正伝」、鴎外の「山椒大夫」と「佐橋甚五郎」について考察した。計算と文学のモデルは、こうした調節が土台になっている。

    花村嘉英(2018) 「シナジーのメタファーの作り方について」より

  • シナジーのメタファーの作り方3

    2.2 Lのフォーマットで文学を比較する

     パイロットとか救急医療または株式市場の現場で働くエキスパートと同様に、作家もリスク回避をテーマにして作品を書くことがある。例えば、トーマス・マンは、20世紀の前半にドイツの発展が止まることを危惧して小説や論文を書き、魯迅は、作家として馬虎(詐欺をも含む人間的ないい加減さ)という精神的な病から中国人民を救済するために小説を書いている。また、鴎外は、明治天皇や乃木大将が亡くなってから、後世に普遍性を残すために歴史小説を書いた。  
     トーマス・マンの文体は、イロニーである。「魔の山」(1924)に限らず、マンは、散文の条件として常に現実から距離を取る。現実を正確に考察しながら、一方で批判するためである。このイロニー的な距離は、正確に記述しようとしても、言語媒体そのもの特徴からあるところで制限される。また、ロトフィ・ザデーのファジィ理論は、システムが複雑になると、振舞について正確ではっきりとした説明ができなくなることを主張する。つまり、両者共に物事を深く突き止めて行ってもそこには限界があり、深追いしないと逆に良い結果が得られることを論じている。(花村2005:113)そこで、「魔の山」の購読脳を「イロニーとファジィ」とし、そこから「ファジィとニューラル」という組に向かい、マンの執筆脳であるファジィを引き出した。
     魯迅の文体は、従容不迫(落ち着き払って慌てないという意味)で、持ち場は短編である。「狂人日記」(1918)と「阿Q正伝」(1922)に対する解析を「記憶と馬虎」にし、これを「記憶とカオス」という生成イメージに近づけるため、場面を作業単位にしてL字の解析と生成を繰り返す。すると馬虎という無秩序状態にある人々の予測不可能な振舞い(非線形性)及び刑場に向かう阿Qと荷車運搬人の近似入力が全く異質の出力になる様子(初期値敏感性)が見えてくる。(花村2015:75) 
     鴎外は、明治天皇や乃木大将の死後、それ以前の文語体ではなく口語体で歴史小説を書いた。歴史小説は、誘発が強い作品と創発が強い作品に分けることができる。例えば、「山椒大夫」(1914)の購読脳は、誘発強と創発弱になり、「佐橋甚五郎」(1913)はその逆になる。また、誘発と創発を合わせた情動と尊敬の念からなる感情を行動と組にして、それを鴎外の執筆脳とし、作成したデータベースから購読脳と執筆脳をマージして、バラツキによる統計処理を試みた。(花村2017:125) 
     三人の作家の上記作品を比較してみると、全て医学情報を含んでいるため、作家が伝えようとする定番の読みとマージ可能な脳内の信号のパスを探すことにより、シナジーのメタファーは想定できる。脳の活動といっても、人文の研究対象が言語や文学であるため、例えば、五感の情報が脳内で伝達される様子について考えている。

    花村嘉英(2018) 「シナジーのメタファーの作り方について」より

  • シナジーのメタファーの作り方2

    2 人文科学からマクロを目指す

    2.1 地球規模とフォーマットのシフト

     文系は人文、文化、社会、理系は情報、バイオ、医学とそれぞれ系列が3つずつある。どの系列でもミクロとマクロを想定し、マクロの項目を地球規模とフォーマットのシフトにすると、こぼれる人はおらず、ミクロだけでなくマクロにも通じるようになれば、自ずと研究は発見につながっていく。人文の場合、地球規模は東西南北となり、フォーマットのシフトは、Tの逆さの認知の定規をLに分けることを指す。  
     こう考えるための客観的な証拠は、私の学歴や職歴にある。元々、ドイツ文学や言語学を専攻し、人文と認知科学を研究してきた。また、職歴は、日本語教授法と機械翻訳が中心で、実務や資格を重ねながら翻訳の作業単位を調節している。例えば、ドイツ語と文学、中国語と法律(契約書)、英語と情報、ドイツ語とバイオ(生化学)、英語と医学などである。文系、理系について記事を書くとき、こうした実績を私なりに調整している。
     また、東西南北は、適当に国地域を選択すればよい。私の場合は、日本やドイツそしてアメリカが先行し、そこには東西があり、その後に日本と中国やアパルトヘイトとナチスから南アフリカとドイツという南北が出てくる。これは、私の著作を読めばわかることであり、それが客観的な証拠となる。さらに、自分が読める言葉を増やしていけば、日本と豪州、北米と南米という組ができ、研究の対象がオリンピックに近づいて行く。
     フォーマットをシフトするには、Tの逆さの定規を崩して縦横に言語と情報の認知を置き、Lのフォーマットを作成する必要がある。その際、スムーズに信号が横をスライドするように、翻訳の作業単位を使って調節していく。これがデータベースを作る際に、テキスト共生の基礎として役に立ち、文学分析にも影響を及ぼす。 
     こうして獲得した知識を基にして、シナジー・共生の組を作っていく。横のスライドがよりスムーズになるように組が増えると、自ずとシナジー論になっていく。バランスを整えるために2個2個のルールを適用する。シナジーの組については、例えば、ソフトウェアとハードウェア、文化と栄養、心理と医学、法律と医学、法律と技術、社会とシステム、社会と福祉、経営工学、文学とデータベースなどが想定される。こうして見ると、地球規模とフォーマットのシフトを調節するには、日頃からのトレーニングが必要不可欠になる。

    花村嘉英(2018) 「シナジーのメタファーの作り方について」より

  • シナジーのメタファーの作り方1

    1 シナジーのメタファーとは何か

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
     執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動は、意欲と組になることを先行研究に入れておく。
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
     メゾのデータを束ねて何やら観察で予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

    花村嘉英(2018) 「シナジーのメタファーの作り方について」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅「阿Q正伝」12

    計算表
    非線形性 3 3 合計6
    偏差 2 2 合計4
    偏差2 4 4 合計8
    初期値敏感性 4 2 合計6
    偏差 3 1 合計4
    偏差2 9 1 合計10
    AB偏差の積 6 2 合計8

    ◆相関係数は、次の公式で求めることができる。
    相関係数=[(A-Aの平均値)x(B-Bの平均値)]の和/
    √(A-Aの平均値)2の和x(B-Bの平均値)2の和
    上記計算表を代入すると、
    相関係数 = 8/√8 x 10 = 8/√80 = 8/4√5 = 2/√5 = 0.89
    従って、かなり正の相関があるといえる。

    5 相関係数を言葉で表す

    数字の意味を言葉で確認しておく。

    0≦r≦0.2 : ほとんど相関がない
    0.2≦r≦0.4 : やや相関がある
    0.4≦r≦0.7 : かなり相関がある
    0.7≦r≦1 : 強い相関がある

    参考文献

    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のDB化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会論文集 2015
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教育研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅『阿Q正伝』」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅「阿Q正伝」11

    A 非線形性1ある、初期値敏感性1ある
    B 非線形性2なし、初期値敏感性2なし
    C 非線形性1ある、初期値敏感性1ある
    D 非線形性1ある、初期値敏感性1ある
    E 非線形性2なし、初期値敏感性2なし
    F 非線形性2なし、初期値敏感性1ある

    非線形性は、あるなしが3、3、一方、初期値敏感性は、あるなしが4、2になる。
    ◆非線形性と初期値敏感性それぞれの平均値を出す。
    非線形性の平均:(3 + 3)÷ 6 = 1
    初期値敏感性の平均:(4 + 2)÷ 6 = 1
    ◆非線形性と初期値敏感性それぞれの偏差を計算する。偏差=各データ-平均値
    非線形性の偏差:(3 – 1)、(3 – 1)= 2、2
    初期値敏感性の偏差:(4 – 1)、( 2- 1)= 3、1
    ◆非線形性と初期値敏感性をそれぞれ2乗する。
    非線形性の偏差2乗 = 4、4 
    初期値敏感性の偏差2乗 = 9、1
    ◆非線形性と初期値敏感性の偏差同士の積を計算する。
    (非線形性の偏差)x(初期値敏感性の偏差)= 6、2
    ◆非線形性と初期値敏感性の偏差を2乗したものを合計する。
    非線形性の偏差を2乗したものの合計 = 4 + 4 = 8
    初期値敏感性の偏差を2乗したものの合計 = 9 + 1 = 10
    ◆非線形性と初期値敏感性の偏差の合計を合計する。
    6 + 2 = 8

    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅『阿Q正伝』」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅「阿Q正伝」10

    4.2 小説の場面に適用する

     阿Qが刑場へ向かう場面でカオスの特性といえる非線形性と初期値敏感性が取れるかどうか見てみよう。それぞれ、1ある、2なしとする。

    刑場へ向かう場面
    A 阿 Q 被抬上了一辆没有篷的车,几个短衣人物也和他同坐在一处.这车立刻走动了,前面是一班背着洋炮的兵们和团丁,两旁是许多张着嘴的看客,后面怎样,阿 Q 没有见.但他突然觉到了:这岂不是去杀头么?
    非線形性1 初期値敏感性1
    B 他意思之间,似乎觉得人生天地间,大约本来有时也未免要杀头的.他不知道这是在游街,在示众他省悟了,这是绕到法场去的路. 非線形性2 初期値敏感性2
    C 却在路旁的人丛中发见了一个吴妈.很久违.阿 Q 忽然很羞愧自己没志气:竟没有唱几句戏.“好!!!”从人丛里,便发出豺狼的嗥叫一般的声音来. 非線形性1 初期値敏感性1
    D 阿 Q 于是再看那些喝采的人们. 四年之前,他曾在山脚下遇见一只饿狼. 非線形性1 初期値敏感性1
    E 可是永远记得那狼眼睛.又凶又怯,闪闪的像两颗鬼火,似乎远远的来穿透了他的皮肉.而这回他又看见从来没有见过的更可怕的眼睛了,又钝又锋利不但已经咀嚼了他的话,并且还要咀嚼他皮肉以外的东西,永是不近不远的跟他走. 非線形性2 初期値敏感性2
    F 这些眼睛们似乎连成一气,已经在那里咬他的灵魂他早就两眼发黑,耳杂里嗡的一声,觉得全身仿佛微尘似的迸散了. 非線形性2 初期値敏感性1

    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-魯迅『阿Q正伝』」より